お知らせ

「軽症は自分で治せ」の時代に、私たちは何を失うのか…

はじめに

世の中は、参議院選挙なのです。3日公示され、選挙区と比例代表にあわせて522人が立候補しました。

報道によると事実上の“政権選択選挙”とも言われています。

だが、病院を掛け持ちする私たちからすると疑問符が付きますね。

それは今年6月、政府は「骨太の方針2025」を閣議決定しました。

来年度から一部の処方薬(OTC類似薬)を保険適用外とする方針を打ち出したのです。

対象となるのは風邪薬や湿布薬、アレルギー薬など、すでに市販薬(OTC医薬品)として流通している成分と同等の処方薬です。

この決定の背景には▽年間48兆円を超える医療費の抑制

セルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること)の推進

そして「軽症は自分で治す」という▽自己責任型の医療観があります。

この医療制度の変更には、ある種の“静かな暴力”を感じています。

参院選後の政党構成によって、処方薬(OTC類似薬)の保険適用除外が本格的に進むかどうかが左右されるんです。

誰が、いつ、どのように決めたのか

この方針は、政府の経済財政諮問会議や厚生労働省の審議会を経て、今年6月13日に閣議決定されました。

つまり選挙で選ばれた政治家と、官僚によって国民の医療アクセスの一部が「自己負担へ」と、かじを切られたのです。

もちろん、この医療制度の持続可能性は重要です。

けれども議論の中心にいたのは「財政」や「効率性」です。

誰が困るのか」「どんな声が届いていないのか」は、どこか置き去りにされているように感じはしませんか。

精神疾患とOTC薬―見えない依存と孤独

市販薬(OTC医薬品)の乱用と精神疾患の関係は、すでに深刻な社会問題です。
2022年に行われた「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患実態調査」という資料があります。
この調査は、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部(東京都小平市)が中心となって実施したものです。

市販薬を含む薬物依存症の実態を把握するために行われました。

調査では、市販薬(OTC医薬品)を主たる薬物とする依存症患者が精神科医療施設で急増していることが報告されています。

特に10〜20代の女性に多く、背景にはストレスやトラウマ、発達障害の併存があるケースも少なくありませんでした。

彼女たちは「快感」ではなく、「苦しみから逃れるため」に市販薬(OTC医薬品)を手に取っているのです。

咳止めや風邪薬、鎮静薬などがその対象であり、依存自ら死にたい気持ちを伴うケースも報告されています。

この医療制度が「軽症は自分で治せ」と促している一方で、

心の不調を抱える人々が、誰にも相談できずに薬に頼る構図が強化されてしまうのではないか?

どうしても心配が残ります。

「軽症」とは、誰が決めるのか

この医療制度の中で「軽症」とされる症状。

例えば頭痛や胃痛、アレルギー、せき―は、精神的な不調のサインであることもあります。

ですが、この医療制度はそれを「自己判断で市販薬(OTC医薬品)を使ってください」と言っています。

でも、心が弱っているときに、正しい判断なんてできるでしょうか。
「病院に行くほどじゃない」と思い込んで、誰にも相談できずに薬を飲み続ける。

そんな孤独が、制度によって“正当化”されてしまうのではないかと危ぶんでいます。

どんな薬が対象に?価格差は?

購入方法など、次の表に代表的な例をまとめてみました。

項目市販薬(OTC医薬品)処方薬(OTC類似薬)
購入方法薬局・ドラッグストアで購入可能医師の診察と処方せんが必要
保険の適用なし(全額自己負担)あり(1~3割負担)
使用の判断自分で選んで使う医師が診断して処方
価格の傾向やや高め(保険なし)やや安め(保険あり)

同じ有効成分を含む薬でも、「市販薬(OTC医薬品)」と「処方薬(OTC類似薬)」では価格や入手方法が異なるのです。

次の表では代表的な薬の例を紹介します。

薬の種類市販薬(OTC医薬品)処方薬(OTC類似薬)市販価格(目安)処方薬の薬価備考
アレルギー錠剤アレグラFXアレグラ錠約1,500円(28錠)約14円(1錠)処方薬は3割負担で約12円/日
胃薬ガスター10ガスターD錠約1,000円(12錠)約10円(1錠)胃酸過多・胸やけに使用
湿布薬ロキソニンSテープロキソニンテープ約1,300円(7枚)約34円(1枚)保険適用で1枚10円程度
保湿剤ヒルマイルドヒルドイドソフト軟膏約1,000円(50g)約20円(1g)美容目的には保険外

保険適用外となれば、患者の自己負担は数倍から10倍以上になる可能性もあります。

反対・懸念の声:制度の副作用を問う

この医療制度の有無に対しては、複数の立場から懸念や反対の声が上がっています。

誰が何を心配視しているか
医師会・薬剤師会・受診控えによる症状悪化
・薬の誤用・副作用の増加
・医療安全の低下
患者団体・慢性疾患患者の負担増
・低所得層の治療を受ける機会を失っていること
民医連など医療団体・「治療を受ける権利の侵害」として明確に反対
・患者視点の不在を批判

特に「処方薬(OTC類似薬)は保険で1日10円程度なのに、市販薬(OTC医薬品)に切り替えると500円かかる」など、

経済的負担が重くのしかかってきます。これは問題ではないでしょうか。

また病気の自覚が薄い人や、高齢者・障害のある方にとって「自己判断で薬を選ぶ」のは危険度が高いという声もあります。

医療制度は、誰のためにあるのか

医療制度は、ただのコストではありません。
それは「誰かが困ったときに、安心して助けを求められる社会」の象徴です。

市販薬(OTC医薬品)の活用は、確かに便利です。

けれども、それが「助けを求めることのハードル」になってしまっては、本末転倒です。

この医療制度の見直しが進む今こそ、私たちは問い直すべきです。
「軽症」とは誰が決めるのか。「自己責任」とは、誰の責任なのか。
そして―「医療制度は、誰のためにあるのか」と。

https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2025-06-20/

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/373973